日溜まりで昼食を楽しむ親子の周りを、鳩が首を前後にピコピコしながら歩いている光景を目にします。鳩は小さな子供が落とすパンくずを期待しているのですが、なぜ鳩は、首をピコピコしながら歩くのでしょうか。その回答は、‘13年10月30日付、朝日新聞の質問コーナーにありました。
鳩は多くの鳥同様、目を少ししか動かせないので、胴体を基準に見た場合、首(目)を前後にピコピコしている様に見えますが、首を基準にすれば、「停止と前進、停止と前進・・・」を繰り返しており景色が流れるのを防ぐ(景色に対して停止する時間を設ける)ことで周囲の変化を察知し易くしている。人間の場合は、頭が動いても目を動かす事で景色を追う事が出来る。更に、頭の両側に付いていて広い視野を得るには便利な目も立体視を得難い。そこで、首を前後させることにより、片方の目で疑似的(両目で見るのに対して時間差がある)に立体画像を得ることで正確な距離感を得ているとのこと。鳩は、不思議な可愛い仕草をしつつも、実際はジーッと正面から子供の落とすパンくずを見ていたのですね。
この様に優れた視力を持つ鳥を捕まえる狩猟法のひとつに「鳥刺し」が有ります。これは、先端に鳥もちを付けた長い竿で鳥を捕まえるのですが、モーッアルトのオペラ「魔笛」に出てくるパパゲーノの仕事であり、藤沢周平“隠し剣”シリーズの映画「必死剣鳥刺し」の中で兼見三左衛門役の豊川悦司がその手法を見せています。この「鳥刺し」のポイントは、竿を鳥の視野の外から接近させるのではなく、鳥の前面からその目に向かって、鳥から見れば竿が点に見える様に、直線的に竿を等速度で突き出すことであり、視野の一点を等速度で動く物体を認知し難い生体反応を利用したものの様ですが、”前面から”と”直線的に”は理解出来ても”等速度で”で竿を動かすことは可能なのでしょうか? 手に持った竿を繰り出すのですから、初速度はゼロであり、そこから速度を得て動く竿は何らかの加速度運動をしているはずです。
石川先生は、手や体の動きが「等速度」での運動を技の本質と説かれます。「等速度」であると、技を掛けられた相手は人間の生体反応として掛ける相手の動きを認知し難くなるため、技が掛り易くなるとするものです。相手に対して、技を掛けるために掴んだ自分の手の動き、体の落下や上昇、剣の振り等が「等速度」であるとはどの様な運動なのでしょうか? 相手の手を掴んだ瞬間速度はゼロであり、そこからの運動は、鳥刺しの竿同様、加速度運動になってしまいます。では、私達の目指す等速度の動きとは何か?を一緒に考えてみましょう。
池袋サンシャインシティーにあるサンシャイン60のエレベータは、地下1階から海抜251mにある地上60階の展望台まで僅か35秒で運行しています。ここから少し、理科の計算が始まります。このエレベータの平均速度Vは、移動距離を単に251mとして
  平均速度;V=移動距離÷移動時間=251÷35=7.2m/s
この7.2m/sは、始めから最後まで続く等速の値です。しかし、等速で動くエレベータには、乗ることも降りることも出来ません。又、このエレベータの最高速度は、600m/分(10m/s)と乗り場のガイド女性が説明してくれました。実際、エレベータ内にはデジタルの速度表示計があり、最高速度は600m/分と表示していました。当然のことですがエレベータは、お客様を安全に且つ心地良く運ぶため、停止(速度ゼロ)状態から加速(正の加速度)し最高速度に至り一定時間保持。目的階に近づくと減速(負の加速度)して停止するのです。つまり「加速度運動」を伴っているのです。
実際にこのエレベータが発生する加速度はいくらなのか、ストップウオッチで計測してみました。前出のエレベータ内速度表示計が「0」から「600」と変化するまでの時間は、凡そ12秒でした。又、目的階に近づき減速する「600」から「0」になるまでの時間は、同じく凡そ12秒でした。加速度aは、単位時間当たりの速度の変化なので単位を合わせて計算すると
  加速度;a=速度の変化÷単位時間=(10−0)÷12=0.8m/s/s
                    (加速度の単位をm/s/sと表示しています)
となります。減速時の加速度は、−0.8m/s/sです。
つまり、サンシャイン60のエレベータは、重力加速度9.8m/s/sの凡そ8%程度の加速度で加速し、最高速度を一定時間保った後、同等の加速度で減速をしているのです。しかし、加速度運動を伴うこのエレベータに乗っても、搭乗中を通して均一な加速度(力)(電車が一定速度で走行中には感じられない力)が加わることは感じましたが、不連続性を感じる事はありませんでした。まるで最初から最後まで等速度で動いている様です。
 ニュートン力学の第2法則は、質点の加速度a(ベクトル)は、そのとき質点に作用する力F(ベクトル)に比例し、質点の質量mに反比例するです。式にすると、
  a(ベクトル)=F(ベクトル)/m
本来、エレベータに乗る私の体重は変わらないので、加速度(a)が変化すれば力(F)の変化として感知出来るはずです。
 もうひとつの例です。
 スキージャンプ女子の高梨沙羅選手が、‘14年1月18日山形蔵王で行われたワールドカップ第8戦で104mを飛び優勝しました。このジャンプ台は、従来の台が、スタートからの長い直線と、踏み切り台部の直線を曲率の小さな円でつないだものと異なり、国際スキー連盟の新規約に従いスタート直後から高速道路の出入り口やインターチェンジに使われているクロソイド曲線(ドライバに与える影響を少なくするために採用。蚊取り線香の渦巻き形状に似ている)が使われたことで、体に感じる加速度(力)の変化を感じ難くくなり、結果として踏み切りタイミングを捉え難く当初彼女を苦しめましたが、僅かな加速度の変化を感性を研ぎ澄ますことで感知し、ベストな踏み切りタイミングに結び付けることで優勝出来たそうです。’14年2月に行われるソチ冬季オリンピックのジャンプ台もこの曲線が使われています。
 私のサンシャイン60のエレベータ搭乗も、感性を研ぎ澄ませて乗れば加速度の変化を感じとることが出来たのかも知れません。又、エレベータ内速度表示計をビデオで撮影することで、細分化した時間当たりの加速度の変化具合をより正確に調べる事が出来たと思われます。その加速度は、時間の経過と共になだらかに変化して最高速度に到達し、同じくなだらかに変化して停止に至っていることでしょう。
この様に、加速度運動ではあっても加速度(力)の掛け方を工夫することで、疑似的に等速度運動であるかのごとく作用することが可能なのです。合気道における技の「等速度」も同じものと考えることが出来ると思います。
この疑似的等速度運動を得るために私が心掛けている工夫は、
 ・加速度の絶対値を小さくする→ゆっくり行う
 ・加速度の変化をなだらかにする→体軸を倒さない。二挙動を避ける
 ・等速度をイメージする→手を前に伸ばす場合、手が胸前から移動し始める・・・
ではなく、背中の後方から続く連続な動きの延長として手を伸ばす
 ・等速度のなだらかさをイメージする→相手の腕を掴む前から、技が決まって掴んだ手
が離れた後も、体の動きを連続性のあるものとして継続する
等です。
参考になりましたか? 道場であなたの考え、工夫を教えて下さい。
お待ちしています。
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(社)楽心館 氣と丹田の合気道会 Rakushinkan Aikido のサイトへようこそ

合気道とニュートン力学(その2)

 日溜まりで昼食を楽しむ親子の周りを、鳩が首を前後にピコピコしながら歩いている光景を目にします。鳩は小さな子供が落とすパンくずを期待しているのですが、なぜ鳩は、首をピコピコしながら歩くのでしょうか。その回答は、‘13年10月30日付、朝日新聞の質問コーナーにありました。

鳩は多くの鳥同様、目を少ししか動かせないので、胴体を基準に見た場合、首(目)を前後にピコピコしている様に見えますが、首を基準にすれば、「停止と前進、停止と前進・・・」を繰り返しており景色が流れるのを防ぐ(景色に対して停止する時間を設ける)ことで周囲の変化を察知し易くしている。人間の場合は、頭が動いても目を動かす事で景色を追う事が出来る。更に、頭の両側に付いていて広い視野を得るには便利な目も立体視を得難い
そこで、首を前後させることにより、片方の目で疑似的(両目で見るのに対して時間差がある)に立体画像を得ることで正確な距離感を得ているとのこと。鳩は、不思議な可愛い仕草をしつつも、実際はジーッと正面から子供の落とすパンくずを見ていたのですね。

この様に優れた視力を持つ鳥を捕まえる狩猟法のひとつに「鳥刺し」が有ります。これは、先端に鳥もちを付けた長い竿で鳥を捕まえるのですが、モーッアルトのオペラ「魔笛」に出てくるパパゲーノの仕事であり、藤沢周平“隠し剣”シリーズの映画「必死剣鳥刺し」の中で兼見三左衛門役の豊川悦司がその手法を見せています。この「鳥刺し」のポイントは、竿を鳥の視野の外から接近させるのではなく、鳥の前面からその目に向かって、鳥から見れば竿が点に見える様に、直線的に竿を等速度で突き出すことであり、視野の一点を等速度で動く物体を認知し難い生体反応を利用したものの様ですが、”前面から”と”直線的に”は理解出来ても”等速度で”で竿を動かすことは可能なのでしょうか? 手に持った竿を繰り出すのですから、初速度はゼロであり、そこから速度を得て動く竿は何らかの加速度運動をしているはずです。
石川先生は、手や体の動きが「等速度」での運動を技の本質と説かれます。「等速度」であると、技を掛けられた相手は人間の生体反応として掛ける相手の動きを認知し難くなるため、技が掛り易くなるとするものです。相手に対して、技を掛けるために掴んだ自分の手の動き、体の落下や上昇、剣の振り等が「等速度」であるとはどの様な運動なのでしょうか? 相手の手を掴んだ瞬間速度はゼロであり、そこからの運動は、鳥刺しの竿同様、加速度運動になってしまいます。では、私達の目指す等速度の動きとは何か?を一緒に考えてみましょう。
池袋サンシャインシティーにあるサンシャイン60のエレベータは、地下1階から海抜251mにある地上60階の展望台まで僅か35秒で運行しています。ここから少し、理科の計算が始まります。このエレベータの平均速度Vは、移動距離を単に251mとして

  平均速度;V=移動距離÷移動時間=251÷35=7.2m/s

この7.2m/sは、始めから最後まで続く等速の値です。
しかし、等速で動くエレベータには、乗ることも降りることも出来ません。
又、このエレベータの最高速度は、600m/分(10m/s)と乗り場のガイド女性が説明してくれました。
実際、エレベータ内にはデジタルの速度表示計があり、最高速度は600m/分と表示していました。
当然のことですがエレベータは、お客様を安全に且つ心地良く運ぶため、停止(速度ゼロ)状態から加速(正の加速度)し最高速度に至り一定時間保持。目的階に近づくと減速(負の加速度)して停止するのです。
つまり「加速度運動」を伴っているのです。

実際にこのエレベータが発生する加速度はいくらなのか、ストップウオッチで計測してみました。前出のエレベータ内速度表示計が「0」から「600」と変化するまでの時間は、凡そ12秒でした。又、目的階に近づき減速する「600」から「0」になるまでの時間は、同じく凡そ12秒でした。加速度aは、単位時間当たりの速度の変化なので単位を合わせて計算すると

  加速度;a=速度の変化÷単位時間=(10−0)÷12=0.8m/s/s
                    (加速度の単位をm/s/sと表示しています)

となります。減速時の加速度は、−0.8m/s/sです。

つまり、サンシャイン60のエレベータは、重力加速度9.8m/s/sの凡そ8%程度の加速度で加速し、最高速度を一定時間保った後、同等の加速度で減速をしているのです。しかし、加速度運動を伴うこのエレベータに乗っても、搭乗中を通して均一な加速度(力)(電車が一定速度で走行中には感じられない力)が加わることは感じましたが、不連続性を感じる事はありませんでした。まるで最初から最後まで等速度で動いている様です。

 ニュートン力学の第2法則は、質点の加速度a(ベクトル)は、そのとき質点に作用する力F(ベクトル)に比例し、質点の質量mに反比例するです。式にすると、

  a(ベクトル)=F(ベクトル)/m

本来、エレベータに乗る私の体重は変わらないので、加速度(a)が変化すれば力(F)の変化として感知出来るはずです。


 もうひとつの例です。

 スキージャンプ女子の高梨沙羅選手が、‘14年1月18日山形蔵王で行われたワールドカップ第8戦で104mを飛び優勝しました。
このジャンプ台は、従来の台が、スタートからの長い直線と、踏み切り台部の直線を曲率の小さな円でつないだものと異なり、国際スキー連盟の新規約に従いスタート直後から高速道路の出入り口やインターチェンジに使われているクロソイド曲線(ドライバに与える影響を少なくするために採用。
蚊取り線香の渦巻き形状に似ている)が使われたことで、体に感じる加速度(力)の変化を感じ難くくなり、結果として踏み切りタイミングを捉え難く当初彼女を苦しめましたが、僅かな加速度の変化を感性を研ぎ澄ますことで感知し、ベストな踏み切りタイミングに結び付けることで優勝出来たそうです。
’14年2月に行われるソチ冬季オリンピックのジャンプ台もこの曲線が使われています。

 私のサンシャイン60のエレベータ搭乗も、感性を研ぎ澄ませて乗れば加速度の変化を感じとることが出来たのかも知れません。又、エレベータ内速度表示計をビデオで撮影することで、細分化した時間当たりの加速度の変化具合をより正確に調べる事が出来たと思われます。その加速度は、時間の経過と共になだらかに変化して最高速度に到達し、同じくなだらかに変化して停止に至っていることでしょう。

この様に、加速度運動ではあっても加速度(力)の掛け方を工夫することで、疑似的に等速度運動であるかのごとく作用することが可能なのです。合気道における技の「等速度」も同じものと考えることが出来ると思います。

この疑似的等速度運動を得るために私が心掛けている工夫は、

  • ・加速度の絶対値を小さくする→ゆっくり行う
  • ・加速度の変化をなだらかにする→体軸を倒さない。二挙動を避け
  • ・等速度をイメージする→手を前に伸ばす場合、手が胸前から移動し始める・・・ではなく、背中の後方から続く連続な動きの延長として手を伸ばす
  • ・等速度のなだらかさをイメージする→相手の腕を掴む前から、技が決まって掴んだ手が離れた後も、体の動きを連続性のあるものとして継続する等です。




参考になりましたか? 道場であなたの考え、工夫を教えて下さい。
お待ちしています。



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